2050 STANDARD LIFE

2025.10.18

子育て×住環境のアプローチ 絵本未来創造機構EQ絵本講師高井先生×三建スペシャルトークセッション<後編>

子育て×住環境のアプローチ 絵本未来創造機構EQ絵本講師高井先生×三建スペシャルトークセッション<後編>


後編も対談してもらうのはこの二人。


トークセッション スペシャルゲスト

高井 千香(絵本未来創造機構 EQ絵本講師)
2人の子育てがひと段落して絵本の力を広げるためにEQ絵本講師として活動。子供の読みものと思っていた絵本の素晴らしさに感激感銘をうけ「たくさんの方に知ってほしい!」とEQ絵本講師へ。




トークセッション 参加者

小谷宏(SANKEN ARCHITECT 住環境アドバイザー)

― 住まいが子どもの成長に与える4つの影響 ―


子どもが育つ環境は、家庭の中のちょっとした工夫によって大きく変わります。
絵本や知育玩具といった「ソフト」だけでなく、住まいの空気や温度、照明、家事動線といった「ハード」もまた、子どもの知的成長を後押しする大切な要素です。
後編では、住宅プランナーの小谷と絵本読み聞かせの専門家・高井先生が「知育に大切な住環境」について語り合いました。その内容を整理し、暮らしのヒントとしてご紹介します。

1. 空気環境 ― 集中力と記憶を支える“見えない教室”


現代の住宅は高気密・高断熱であるため、自然換気が起こりにくくなっています。その結果、室内の二酸化炭素濃度が1000ppmを超えることも珍しくありません。
建築基準法では「2時間に1回、家全体の空気が入れ替わる設計」が義務づけられています。しかし実際には、すべての部屋で均等にきれいな空気と入れ替わるように設計されているわけではありません。子ども部屋や寝室など、長時間過ごす場所ほど空気が滞りやすく、気づかぬうちに集中力や睡眠に悪影響を及ぼしています。
小谷はこう指摘します。
「二酸化炭素濃度が1000ppmを超えると、記憶の定着率が3〜4%落ちると言われています。子どもが勉強に集中できないとき、まずは空気環境を整えることが重要なんです」
実際のデータでも、二酸化炭素濃度が高い空間では集中力が下がるだけでなく、睡眠時間が短くなる傾向があることが分かっています。毎日の積み重ねが、成績や学力にまで影響していくのです。
この話に、高井先生も驚きを隠せませんでした。
「空気が子どもの集中力や睡眠に影響するなんて、正直初めて知りました。絵本の読み聞かせも、快適な空気環境の中だからこそより良い時間にできるのかなと思いました」
空気は目に見えない存在です。しかし侮ってはいけません。
家族、特に子どもの健康や学力に大きく影響を与える要素だからこそ、日々の暮らしの中でしっかりと意識し、整えていくことが大切なのです。


2. 温熱環境 ― 健康を守り、学びの機会を広げる


WHOは住宅内の温度を18℃以上に保つことを推奨しています。16℃を下回ると体調不良や血圧上昇のリスクが高まるとも言われています。
慶應義塾大学の研究によれば、暖かい家で暮らす子どもは寒い家の子どもに比べ、幼稚園や保育園の欠席率が260%も低いとの結果が出ています。つまり「家が暖かいかどうか」で、子どもの学びや集団生活の機会が何倍も変わるということです。
小谷はこう指摘します。
「ヒートショックや熱中症といったリスクはよく話題になりますが、年配の方だけが気を付ければいいという誤解があるんです。実際には、子どもの過ごす環境を18度以上に保つことが、学力や睡眠時間にも大きく影響します。たかが温度、されど温度。侮れないんです」
この言葉に高井先生も深くうなずきました。
「体調が整い欠席が減れば、集団活動に触れる時間も増えますし、日々の生活のリズムも安定しますね。温度一つで子どもの学びの土台が揺らぐなんて、本当に侮れないものですね」
一見「快適さ」にすぎないように見える温熱環境ですが、実は子どもの健康と知育を支える、見えない教育インフラとも言える存在なのです。

3. 照明計画 ― 睡眠リズムと学習効果を後押し


子どもの学習成果には、十分な睡眠が欠かせません。
小谷は「子ども部屋に間接照明を入れ、就寝前に明るさを落とすだけで、1日4〜7分の睡眠延長につながる」と紹介しました。
年間にすると約10日分の睡眠差になります。わずかな積み重ねが、集中力や学習効率に大きな差を生むのです。
ところが実際の住まいでは、リビングやダイニングの照明計画にはこだわる一方で、寝室は「とりあえず天井にシーリングライトを1灯つけておけばよい」というご家族も少なくありません。しかしこれは子どもの睡眠環境としては危険です。強い光源が直接目に入ると脳が「まだ活動時間だ」と誤認し、入眠が遅れる原因となります。
光の質も重要です。白色の強い光よりも、暖色系の柔らかい光が入眠を促進します。就寝前の過ごし方と合わせて、明るさを段階的に落とす工夫が、自然な睡眠リズムをつくります。
高井先生もこの点に強く共感しました。
「明るさのコントロールが親子の時間をもっと豊かにするんですね。そういう雰囲気での読み聞かせは穏やかな時間になりそうですね」
照明はインテリアの一部と考えられがちですが、実は知育を静かに支える“教育装置”。寝る前の照明ひとつで、学習効率も親子のコミュニケーションも変わっていくのです。

4. 家事動線とお手伝い ― 生活参加が知育につながる


知育というと机に向かって勉強する姿をイメージしがちですが、実は日常生活の中にこそ大きな学びのチャンスが潜んでいます。その代表が「お手伝い」。意外に思えるかもしれませんが、子どもが自然にお手伝いできる環境は、知性やEQ(心の知能指数)を育てる大切な要素でもあります。
小谷はこう語ります。
「子どもは本来、お手伝いをしたい存在なんです。収納や動線を少し工夫するだけで、自然に家事に参加できるようになります。低い位置に収納をつくったり、踏み台を置けるスペースを確保したり。小さな工夫が『自分も役に立てた!』という成功体験につながります」
一般的に家事動線というと「奥様が料理しやすいように」という視点で考えるご家庭が多いですが、小谷は「子育ての観点からも動線を設計する」ことをよく提案しているのだそう。子どもが自然と関われる仕組みをつくることで、家事が“家族の共同作業”に変わり、親子のコミュニケーションも豊かになります。
高井先生もこの意見に強くうなずきました。
「お手伝いは単なる労働ではなく、親子の会話や信頼を育む大切な場。子どもが関わることで、むしろ家庭の雰囲気が明るくなりますね」
ここまで真面目に展開してきましたが…実際には「手伝う」と言いつつ途中で遊び出したり、玉ねぎの皮むきで床が大惨事になったりするのも“お約束”。でも、そんなちょっとした笑いがあるからこそ、家事の時間が知育の時間に変わっていくのかもしれません。
家事動線は「効率のため」だけではなく、「子どもが自然に関われる仕組み」として考えることで、暮らしの豊かさと子どもの成長を同時に後押しできるのです。


まとめ ― 知育にはソフトとハードの両輪が必要


知育というと、絵本や知育玩具など「ソフト」の側面に目が向きがちです。もちろんそれらは子どもの想像力や言語力を育む大切な道具です。
しかし今回のセッションで見えてきたのは、空気・温熱・照明・動線といった「ハード」の環境もまた、学びの質に直結しているということ。

ソフト:絵本、知育玩具、読み聞かせ、遊び

ハード:空気環境、温熱性能、照明計画、家事動線


この両輪が揃ってはじめて、子どもの知育は豊かに育まれていきます。
住まいは単なる器ではなく、子どもの未来を支える教育環境そのもの。家づくりにおいても、知育を意識したソフトとハードのバランスを整えることが、これからの大切なテーマになるでしょう。
今回の対談では、絵本を通じて知育と住環境という異なる視点が交差することで、より深い学びが得られる場となりました。
「子どもの可能性を広げるために、親ができること」ーーそのヒントを、皆さまに持ち帰っていただくことができたのではないでしょうか?

SANKENは、これらすべての要素に配慮した住環境を提供することで、子どもたちの健やかな成長を支えています。

住まいづくりを通じて、家族の幸せな暮らしを実現する。それが、私たちの変わらない想いです。